注文住宅はいくらあれば建てられる?「坪単価」だけでは分からない家づくりの総予算
こんにちは。イシハラアーキテクト代表の一級建築士の石原健です。
「注文住宅を建てるには、いくらくらい必要ですか?」
家づくりを考え始めると、誰もが一度は気になることだと思います。
住宅会社のホームページを見ると、
「坪単価80万円〜」
「坪単価100万円程度」
といった数字が並んでいます。
すると、
坪単価100万円 × 30坪 = 3,000万円
というように、家の大きさから建築費を想像したくなります。
ところが、実際に住宅を設計している立場からすると、家の価格はそれほど単純ではありません。
同じ30坪の住宅でも、
-
どんな土地に建てるのか
-
平屋なのか、2階建てなのか
-
建物をどんな形にするのか
-
どのくらいの住宅性能を求めるのか
-
どんな素材を使うのか
-
窓をどこに、どのくらい設けるのか
-
庭まで含めてどう計画するのか
によって、必要な予算は大きく変わります。
そして実際の家づくりでは、
「建物そのもの」より、計画の前提条件によって予算が狂っていく
ことが少なくありません。
今回は「注文住宅はいくらで建つのか」という疑問について、単純な坪単価ではなく、私たちが実務の中で見ている**“予算差が生まれるポイント”**から考えてみたいと思います。
注文住宅の建築費は、すでに4,000万円を超える時代に
住宅金融支援機構が公表した「2025年度フラット35利用者調査」では、フラット35を利用して注文住宅を建てた方の平均建設費は、全国で4,259.8万円でした。
土地から購入した「土地付注文住宅」では、
-
建設費 3,737.6万円
-
土地取得費 1,575.3万円
となっており、単純に合計すると5,300万円を超えます。
もちろん全国平均ですから、埼玉北部や群馬南部の土地価格とそのまま比較することはできません。
また、注文住宅すべての平均を表す数字でもありません。
ただ、資材価格や人件費の上昇もあり、
「注文住宅は2,000万円台で建てるもの」という少し前の感覚のまま予算を考えることは難しくなっている
のは確かです。
だからこそ、限られた予算をどこに使うのかが、以前にも増して重要になっています。
坪単価だけでは、本当の価格は分からない
そもそも「坪単価」には、住宅業界共通の明確なルールがありません。
同じ「坪単価100万円」でも、
ある会社では照明やエアコンまで含まれ、別の会社では建物本体だけということもあります。
地盤改良や給排水、設計料、外構工事などを含むかどうかも会社によって違います。
つまり、
A社は坪90万円、B社は坪110万円だから、A社の方が安い
とは単純には判断できません。
さらに重要なのは、坪単価以前に、
同じ30坪でも、30坪のつくり方によって価格が違う
ということです。
ここが、実際の住宅設計では非常に大きなポイントです。
同じ30坪でも、家の価格は変わる
たとえば延床面積30坪の住宅が2棟あったとします。
一方は、
-
シンプルな総2階
-
整形地
-
標準的な間口
-
シンプルな屋根形状
もう一方は、
-
平屋
-
大きな吹き抜け
-
大開口
-
ビルトインガレージ
-
凹凸のある平面
-
高低差のある敷地
だったとします。
床面積は同じ30坪でも、必要になる基礎、屋根、外壁、構造材、サッシなどの量はまったく違います。
つまり住宅価格は、
「何坪あるか」だけで決まるものではありません。
むしろ実務では、
土地条件 × 建物形状 × 性能 × 素材 × 設計
の組み合わせによって決まっていきます。
では具体的に、どんなところで予算差が生まれるのでしょうか。
予算が狂いやすいポイント① 土地の値段より「建てるために必要なお金」
土地を探している方に、まず知っていただきたいことがあります。
土地価格が安い=家づくり全体が安い、ではありません。
たとえば土地に高低差があれば、
-
擁壁
-
土留め
-
盛土
-
切土
-
残土処分
-
深基礎
などが必要になることがあります。
水道が敷地まで引き込まれていなければ、引き込み工事が必要です。
下水道がなければ浄化槽になるかもしれません。
既存建物があれば解体費もかかります。
一見500万円安い土地を見つけても、その土地に家を建てるために数百万円余計に必要なら、家づくり全体では決して安くありません。
特に埼玉北部・群馬南部・栃木南部では、都市部と比べて土地そのものは比較的手に入れやすい一方、敷地が広かったり、造成やインフラの条件が土地ごとに大きく違ったりします。
だから私たちは土地を見るとき、
「土地はいくらか」ではなく、「この土地に家を建てられる状態にするまで、いくらかかるか」
を見ます。
土地を購入してから住宅会社に相談するより、できれば購入前に建築の視点で確認してもらうことをおすすめする理由もここにあります。
予算が狂いやすいポイント② 平屋だから安い、とは限らない
「小さな平屋なら安く建てられますか?」
これもよく聞かれる質問です。
もちろん床面積を抑えれば、総額を抑えやすくなります。
ただし、同じ30坪なら、平屋は2階建てより必ず安いとは限りません。
30坪の総2階なら、単純に考えれば1階部分は15坪程度です。
一方、30坪の平屋では30坪分の基礎と屋根が必要になります。
つまり同じ延床面積でも、
基礎面積や屋根面積が大きくなる。
そのため坪単価だけを見ると、平屋の方が高くなることもあります。
だから、
「坪単価はいくらですか?」
という質問だけでは、実際の建築費を判断するのは難しいのです。
予算が狂いやすいポイント③ 家の「形」は意外と価格に効く
床面積ばかり注目されますが、私たち設計者が予算を見るときは、建物の形もかなり意識しています。
同じ30坪でも、
シンプルな四角い建物と、
出たり引っ込んだりした複雑な建物では、
基礎の長さも、外壁の面積も、屋根の納まりも変わります。
複雑な形が悪いという意味ではありません。
敷地や暮らしに必要なら、当然そういう設計もあります。
問題なのは、
その凹凸に、本当に予算を使う価値があるか
です。
見た目のためだけに建物を複雑にするのであれば、その予算を別のところへ使った方が暮らしは豊かになるかもしれません。
設計とは、形をつくることだけではなく、
「どこにお金を使い、どこをシンプルにするか」を決めることでもある
と私たちは考えています。
予算が狂いやすいポイント④ 住宅性能は見た目では分からない
同じ30坪、同じような外観でも、住宅性能によって価格は変わります。
たとえば、
-
断熱材
-
窓
-
気密施工
-
換気
-
耐震性能
-
構造計算
-
防蟻処理
などです。
これらは完成写真ではほとんど見えません。
しかし、住み始めてからの快適性、光熱費、安心感、家の耐久性には大きく関係します。
住宅会社を坪単価で比較するときに難しいのは、
見えている面積は同じでも、壁や床の中身が同じとは限らない
ということです。
価格だけを下げようとすると、こうした完成後には変更できない部分まで削られてしまうことがあります。
私たちは、住宅性能については単なるオプションではなく、住まいの土台として考えています。
予算が狂いやすいポイント⑤ 素材は「全部高級」にしなくてもいい
自然素材を使えば、当然コストが上がる部分もあります。
無垢材、左官、木製建具、造作家具。
ただ、家じゅうすべてを高価な素材にすれば良い住宅になる、とは私たちは考えていません。
重要なのは、
人がよく触れるところ、よく目にするところ、長く残るところにきちんと予算を使うこと。
たとえば毎日触れる床。
長い時間を過ごすLDK。
窓辺。
ダイニングテーブルの周り。
玄関。
そうした場所に本物の素材を使い、その他はシンプルにまとめる。
設計によって予算にメリハリをつければ、総額を際限なく上げなくても、住まいの質を高めることはできます。
予算が狂いやすいポイント⑥ 小さくしても価格は比例して下がらない
「30坪を27坪にすれば、10%安くなる」
とは限りません。
家を小さくしても、
-
キッチン
-
浴室
-
洗面
-
トイレ
-
給湯器
-
玄関
-
分電盤
といった設備は基本的になくなりません。
30坪の家を27坪にしても、キッチンが10%安くなるわけではないからです。
そのため小さな住宅ほど坪単価は高くなる傾向があります。
しかし、ここで大切なのは、
坪単価が上がった=損をした、ではない
ということです。
たとえば35坪・坪100万円の家が3,500万円。
30坪・坪110万円なら3,300万円。
坪単価だけを見れば後者の方が高いですが、建築費の総額は200万円下がっています。
その200万円を、
庭や植栽、家具、断熱性能、良い素材に使うこともできます。
だから私たちは、坪単価を下げること自体を家づくりの目的にはしません。
予算が狂いやすいポイント⑦ 庭を最後にすると、家まで少し残念になる
住宅の予算で後回しにされやすいのが外構です。
建物に予算を使い切って、
「庭は住んでから考えます」
となることもあります。
もちろん後から少しずつ手を入れる楽しみもあります。
ただ、私たちは建物と庭を完全に別のものとは考えていません。
リビングの窓の先に何が見えるのか。
ダイニングからどんな緑が見えるのか。
道路から玄関まで、どう歩いて家に入るのか。
夏の日差しをどう遮るのか。
家の中の心地よさは、外部空間とかなり深くつながっています。
大きな窓を設けても、その先が駐車場や隣家の壁なら、せっかくの窓をカーテンで閉じて暮らすことになるかもしれません。
反対に、それほど大きな家でなくても、窓の先に庭があり、視線が外へ抜ければ、室内は実際の床面積以上に広く感じられます。
つまり、
建物を1坪大きくするより、庭に予算を使った方が豊かになることもある
のです。
「何坪欲しいですか?」から考えない
家づくりの要望を聞いていると、
「LDKは20帖以上欲しい」
「家は35坪くらい欲しい」
という話が出ることがあります。
もちろん面積は大切です。
ただ、私たちは最初から数字だけを目標にはしません。
20帖のLDKでも、家具の配置が悪かったり、通路ばかりだったりすれば広くは感じません。
反対に、それほど大きくなくても、
-
視線が庭まで抜ける
-
天井の高さに変化がある
-
窓辺に居場所がある
-
家具がきれいに納まる
-
必要な場所に必要な収納がある
といった工夫で、ずっと伸びやかに感じることがあります。
床面積と、空間の豊かさは同じではありません。
ここは注文住宅の予算を考えるうえで、とても重要なことだと思います。
名作住宅を訪れると、意外なほどコンパクト
建築の世界には、長い年月を経ても評価され続けている住宅があります。
そうした、いわゆる「名作住宅」を実際に訪れてみると、私自身よく感じることがあります。
写真で見て想像していたより、意外なほどコンパクトなのです。
建築写真では空間が大きく見えていたのに、実際に立ってみると、
「こんなに小さかったのか」
と驚くことがあります。
それでも狭いとは感じません。
むしろ、
窓の位置、天井の高さ、光の入り方、家具との関係、庭への視線、素材の使い方。
一つひとつが考え抜かれていて、小さな空間の中に豊かな場所がいくつもあります。
これは、現在の住宅づくりにも通じると思います。
住宅の価値は、
何坪あるかだけでは決まりません。
むしろ限られた面積の中で、
「ここで朝食を食べたい」
「ここで本を読みたい」
「この窓から庭を眺めたい」
と思える場所がどれだけあるか。
そうした居場所の質の方が、実際の暮らしには大きく影響します。
面積ではなく「暮らしの豊かさ」に予算を使う
住宅価格が上がっている現在、すべての希望を足していけば予算はいくらあっても足りません。
だからこそ、
「何を削るか」
だけではなく、
「何を大切にするか」
を決めることが重要になります。
私たちは、必ずしも家を大きくすることが最良とは考えていません。
必要以上に面積を増やすより、
-
住宅性能
-
長く使える素材
-
気持ちの良い窓辺
-
家具
-
庭や植栽
-
家族それぞれの小さな居場所
に予算を使った方が、暮らしが豊かになる場合があります。
たとえば「あと3坪広くするための予算」を、
庭や植栽に使う。
無垢の床に使う。
断熱性能に使う。
毎日家族が集まるダイニングの家具に使う。
あるいは、何もしない余白として残しておく。
それも立派な予算配分です。
注文住宅で本当に考えるべきなのは「いくらで何坪建てられるか」ではない
注文住宅の予算を考えるとき、
「坪単価はいくらですか?」
「この予算なら何坪建ちますか?」
というところから入りたくなる気持ちはよく分かります。
ただ、本当に大切なのは、
その予算を使って、どんな暮らしをつくるのか。
家の大きさよりも、
土地の選び方。
建物の形。
性能。
素材。
庭。
そして設計。
それらの組み合わせによって、同じ予算でも完成する住まいは大きく変わります。
イシハラアーキテクトでは、まず「何坪欲しいですか?」から家づくりを始めません。
どんな時間を大切にしたいのか。
家でどんなふうに過ごしたいのか。
土地にどんな可能性があるのか。
そして、家づくり全体にどのくらいの予算を使えるのか。
そこから一緒に整理していきます。
面積にお金を使うより、性能・素材・庭・居場所に使った方が、暮らしが豊かになる場合があります。
ただ「広い家」ではなく、
必要な場所に、必要な豊かさがある家。
私たちは、限られた予算をそのために使うことが、注文住宅を設計する意味のひとつだと考えています。
家づくりの予算や土地について迷われている方は、土地を購入したり、希望の坪数を決め切ったりする前でも構いません。
「この予算なら、どんな家づくりができるのか」
というところから、ご相談ください。
※参考:住宅金融支援機構「2025年度 フラット35利用者調査」。フラット35利用者を対象とした調査であり、すべての注文住宅の平均を示すものではありません。