高気密高断熱の家は夏に暑い?|断熱等級7を設計する一級建築士が解説します

公開日:2026/04/24(金) 更新日:2026/04/25(土) 住宅性能

 

イシハラアーキテクト代表一級建築士の石原健です。

高気密高断熱の家は、日射遮蔽をきちんと設計すれば、夏も涼しい家になります。
ただし「高断熱にすれば自動的に涼しくなる」わけではありません。
一級建築士の立場から、その理由をお話しします。

エアコンなしでひんやり——見学会での出来事

 

先日、完成見学会のときのこと。

外の気温は25℃くらい。日向にいると少し汗ばむような、春の陽気の日でした。
一通り見て回ったお客様が、ふっと立ち止まって一言。

……家の中、ひんやりして気持ちがいいですね」

エアコンはOFF。テラスデッキに面した掃き出し窓と、対角にある小窓だけを開けていました。
ひんやりとした室内を、4月の程よく乾いた風がすうっと抜けていく。
それだけで、とても心地よい空間になっていました。

暑い日に家の中に入った瞬間、ひんやり感じる。
それは、断熱設計がうまくいっている証拠です。

 

なぜ、エアコンなしでひんやり感じるのか

 

人間が「涼しい」と感じるのは、空気の温度だけではありません。
実は体感温度のおよそ半分は、天井や壁の表面温度——つまり、周囲から体に届く放射熱で決まると言われています。

断熱性能の高い家の壁は、過去3日間くらいの平均気温を「覚えている」ような振る舞いをします。
昨日までの涼しさが壁に蓄えられていて、外がいきなり暑くなっても、壁の温度はゆっくりとしか変わらない。

だから、室温が同じ25℃でも、壁の表面が25℃の家と32℃の家では、感じる涼しさがまるで違います。
温度計の数字ではなく、壁の温度が体感を決めているのです。

近いイメージは魔法瓶です。熱の出入りがとても緩やか。
だから朝の涼しさが昼過ぎまで残り、エアコンで冷やした空気も長く持続する。
断熱性能の高い家では、この「緩やかさ」が顕著に体感できます。

よくできた夏の高断熱住宅は洞窟に例えられます。
夏に洞窟に入るとひんやりするのは、空気が冷たいからではありません。
周囲の岩の表面温度が一年を通してほぼ一定に保たれていて、その岩から受ける放射熱が少ないからです。
高断熱住宅の室内で感じるひんやり感は、これと同じ原理です。
断熱性能の高い壁や天井は外気温に引きずられにくく、表面温度が安定している。
真夏でも壁が冷んやりとしているから、体が涼しいと感じるのです。

 

高断熱なのになぜ夏は暑くなるのか

 

高断熱の家は、設計を間違えると夏はかえって暑くなります。

知り合いのママ友さんのお宅は、性能を売りにするある大手ハウスメーカーで家を建てたそうなのですが、こんなことを言っていたそうです。
「冬はいいんだけど、夏はダメなんだよね。特に2階の西の部屋が暑くてどうしようもない」と。
断熱性能そのものは高いはずなのに、です。

原因は明らかで、おそらく間取り集から選ばれたであろうプランを、
敷地に当てはめたところ、西に大きな窓が並ぶ住宅になってしまったから。
夏の厳しい西日が室内に容赦無く照りつけることで、
室温はぐんぐん上昇します。

これは珍しい話ではありません。高断熱の家に夏の熱が侵入する経路を見ると、理由がわかります。
窓からの日射熱が約70%、屋根・壁・天井を通じた伝導熱が約20%、換気による熱気の流入が約10%
圧倒的に窓からの日射が多いのです。

日射を無防備に取り込んでしまえば、その熱は断熱材に守られて外に逃げません。
魔法瓶に熱湯を入れたら、いつまでも冷めないのと同じ原理です。

そのママ友さんは、担当者に相談したところ、
「(標準搭載されている)断熱ブラインドを閉めてください」と言われたそうですが、
窓内で対策しても、日射熱は再放射されるので根本的な解決にはなりません。

 

夏の日射熱侵入をどう防ぐか——庇の寸法ひとつに理由がある

最大の侵入経路である窓への対策が、設計の肝になります。

まず確認するのは敷地の方位と周辺の建物。
それから、その土地での太陽高度を季節ごとに計算します。たとえば埼玉県深谷市(北緯36度付近)の場合、夏至の南中高度は約77度。
冬至は約30度。この差を利用して、南面の庇の出寸法を決めます。

庇を適切に出せば、夏の高い太陽は遮り、冬の低い太陽は室内に招き入れることができる。
南面に関しては、庇の出寸法ひとつで「夏は遮蔽、冬は取得」を両立できるのです。

問題は東面と西面です。特に西日。夏の西日は太陽高度が低いので、庇では防げません。
外付けシェードやすだれを使うか、あるいは西面の窓の大きさや配置そのものを工夫する必要があります。
ここを軽視すると、午後からエアコン無しでは暮らせない家になってしまいます。

もうひとつ見落とされがちなのが、籠もった熱の排出経路です。
窓の配置による通風経路の確保や熱を「出す」仕組みも設計段階で組み込んでおきます。

丁寧な設計には、知識と手間がかかる

こうした日射のコントロールは、パッシブ設計と呼ばれます。
太陽の動きを読み、季節ごとの日射角度を計算し、庇の出寸法、窓の位置と大きさ、
ガラスの種類——日射取得型にするか遮蔽型にするか——を一枚一枚決めていく。
率直に言って、知識も時間もかかる作業です。

大手ハウスメーカーの場合、年間何百棟もの住宅を手がける中で、一棟ごとに手間をかけるのは難しい。
だから日射遮蔽は断熱ブラインドで後から対応する、という方針になりがちです。
窓の配置や庇の設計段階で手を打たなければ、根本的な対策にはなり得ません。

 

では、パッシブ性能だけを追い求めればいいのか——窓の「情緒性能」

 

では、パッシブ性能だけを追い求めればいいのか。

窓は光と風と景色を届けてくれるものでもあります。
朝日が差し込むダイニング、庭の緑が見えるリビング、季節の移ろいを感じる寝室の小窓。
暮らしの豊かさを生む「情緒性能」とでも呼ぶべきものが、窓にはあります。

どこにどんな大きさの窓をつけて、その窓から入る日射を夏はどう遮り、冬はどう取り入れるか。
敷地から見える良い風景をどう切り取り、取り入れるか。
結局のところ、バランスです。そのバランスを丁寧に見極めることが、
窓設計の難しくも、やりがいのあるところです。

まとめ

高気密高断熱の家は、正しく設計すれば夏こそ真価を発揮します。
壁や天井が外の暑さに引きずられず、少しの冷房で涼しさが長く続く。

ただし、それは日射遮蔽の設計、換気計画、窓の配置と種類の選定——こうした丁寧な設計があってはじめて実現するものです。

これから家づくりを考える方は、断熱性能の数値だけでなく、
「夏の日射をどう設計で防いでいるか」を、設計者に聞いてみてください。
たとえば「西面の窓の日射遮蔽はどう計画していますか」「庇の出寸法はどう決めていますか」。
その問いに具体的な数字と根拠で答えてくれるかどうかと、
夏も涼しい家になるかどうかの分かれ目です。