埼玉の工務店が、真冬の北海道で学んできたこと|北海道断熱修行の旅2026

公開日:2026/03/20(金) 更新日:2026/03/21(土) 日々のこと

イシハラアーキテクト代表の石原健です。

217日から19日の3日間、一般社団法人ミライの住宅が主催する「北海道断熱修行の旅2026 旭川コース」に参加してきました。

 

北海道の建築家・山本亜耕さんのアテンドのもと、全国から集まった住宅のつくり手たちと一緒に、

建築技術と美味しい物を味わう3日間。「修行」の名にふさわしい濃密な時間でした。

「断熱修行の旅」はミライの住宅が開催している「空調講座」のスピンオフ企画。

どちらもすぐに席が埋まる人気講座です。空調講座は、昨年の長野回で参加が叶いました。

半年間、空調設計をみっちり学び、最終回には全員の前で、自分で設計した物件を修了発表。

パスできないと卒業できない恐怖の仕組み(笑)。

ヒーヒー言いながらも、発表者の中から数人選出される空調設計賞に選んでいただき、なんとか卒業できました。

 

今まで空調設計の曖昧だった部分が、クリアになった講座でした。

このコラムでは、旅を通じて体感したこと・学んだことを、いくつかのテーマに分けてお伝えしたいと思います。

 

10数年振りの冬の北海道

 

空港から電車、地下鉄を乗り継ぎ、集合場所の宿まで向かいます。

数週間前は記録的な大雪だったそうで、私が北海道入りした時は雪は減ったようですが、

地下鉄最寄り駅から地上に出た瞬間、目に飛び込んできたのは圧倒的な雪の量でした。

大通りも路地もアスファルトはまったく見えず、街全体が白に覆われている。

一方で、雪のない歩道もあり、足元に目をやるとロードヒーティングが敷設されていました。

雪と共存するための技術が、街のインフラにまで根づいていることに驚かされます。

12泊目の宿は民泊。少し築古の建物で、暖房は最近の北海道では少数派と言われるFF式灯油ファンヒーター。

場所によっては少し肌寒く、正直なところ「北海道の家ってこんな感じなのか」と思ったのですが、

この宿が選ばれた隠れた理由を、旅の後半に知ることになります。

民泊にみんなで泊まる様子は、おじさん達の修学旅行の様相です。

初日の夜は、参加者の顔合わせを兼ねた懇親会。メインの塩ホルモンがとにかく美味しい。

全国から集まったつくり手たちとの語らいで、学びへの期待が高まります。

そしてこの夜、アテンド役の建築家・山本亜耕さんが取り出したのが、1964年発刊の断熱技術講習テキスト。

60年以上前から北海道では断熱が研究されていたその重みを、年季の入った本から感じ取りました。

旭川の北方建築総合研究所(北総研)へ

 

2日目は、旭川市にある北方建築総合研究所(北総研)の見学へ。

住宅の断熱・気密・換気・暖房といった温熱環境に特化した公的研究機関は、実は国内でここだけです。

建物に入ると、まず目に飛び込んでくるのが有名なアトリウム。

北海道の住宅の歩みの展示も興味深い。北海道の住宅研究を半世紀以上にわたって支えてきた研究の歴史を感じます。

 

 

研究機関のため内部の撮影は不可。

区画ごとに立ち入り権限のレベルが設定されており、研究施設としての厳格さを肌で感じます。

見学では、耐火性能試験する加熱試験設備、耐震性能を検証する起震機、耐力壁の破壊実験設備など、

温熱環境以外の住宅の安全性を科学的に裏づけるための装置も並んでいました。

中でも印象的だったのが、パッシブ換気の給気窓開閉の実演。

 

新鮮な空気がどう流れるのか、目の前で見ることができたのは貴重な体験でした。

北海道の住宅技術は「個人のノウハウ」ではなく「みんなが安全に使える仕組み」として整理されてきたという点です。

大学と研究機関が理論をつくり、建材メーカーが現場のフィードバックを受けて製品を改良し、

指導センターが住まい手への啓発を担う。産学官が連携して住宅の品質を底上げしてきた北海道の知見が、

本州の住宅の技術レベルを向上させてくれた側面があります。

 

北総研を後にし、旭川家具メーカー「匠工芸」さんの工房見学へ。

 

旭川は飛騨と並ぶ、家具の名産地でもあります。家具の製作工場内の見学させていただきました。

かなりの数の製品が展示されていて、何脚も座って試す。普段、北欧家具に目が行きがちですが、国産もとても良い。

座面の高さが絶妙な設定のダイニングチェアに惹かれました。

世界的に有名な椅子コレクター織田憲嗣さんのご自宅は、隣町の東川町にあるそうです。

先日、渋谷ヒカリエで開催されていた「織田コレクション ハンス・ウェグナー展」に足を運びましたが、非常に見応えがありました。

 

いよいよ、北海道の住宅を体感

3日目は札幌に戻り、山本亜耕さん設計の住宅見学。

その後、パネルヒーターメーカーのピーエスさんの宿泊研修施設Kハウスに宿泊しました。

今日は朝から北海道らしい天候。

 

この日は今回の旅の大きな目的だったパッシブ換気と放射暖房の体感することができました。

個人のお住まいをご好意で見学させて頂いているので、写真のアップは自粛。

住まい手さん家族は、冬はスキー、夏はサーフィンを家族で楽しむ暮らしをされていて、とても羨ましい。

それらの道具を愛でることができる仕掛けもすごく良かった。

またリビングの窓の向こうには、隣家や木々の隙間を縫うようにして、遠く石狩湾が見える。

その視線の抜けは偶然ではなく、周囲の建物や植栽の「隙間」を読み解いた設計によるものでした。

他にもこだわりが散りばめられた、豊かに設られた住まいです。

 

自然の原理で動くパッシブ換気

一般的な住宅の換気は、機械のファンを回して強制的に空気を入れ替えます。

建築基準法で義務付けられている24時間換気も、多くの場合は機械換気です。

ですが、機械換気には、故障、運転音、そしてメンテナンスの手間と更新コストいう課題があります。

パッシブ換気は、これらの全て解決できる。

北海道大学と北総研が共同開発した技術で、「暖かい空気は上に昇る」という自然の原理を利用します。

高断熱・高気密の住宅の床下から外気を取り入れ、床下の暖房機で暖めてから室内に送り込む。

暖められた空気は自然に上昇し、家中を循環したあと、高所の排気口から排出される。

機械を使わず、暖房と換気を同時に実現するシステムです。

 

床下エアコン、小屋裏エアコンと、とても相性が良い。

ただし、パッシブ換気はどんな家にも採用できるわけではありません。

計画通りに空気を流すには、気密・断熱性能が前提条件になります。

つまり、家そのものの性能が高くないと成り立たない仕組みなのです。

メリットは、導入コスト、ランニングコストの低さ、機械動力に頼らないので故障することがないということ。

維持管理もとても簡単で、頭寒足熱の理想的な環境が実現できることです。

北海道ではすでに3,000棟以上の住宅で採用実績があり、停電時にも換気が止まらないという大きなメリットもあります。

機械に頼らず自然の力で空気を動かすという考え方は、住宅のつくり手として非常に示唆に富むものでした。

採用するにあたって、疑問点、ネックに感じていたことも教えて頂くことができました。

 

放射暖房の「じんわり」とした暖かさ

2物件見学の後は、放射冷暖房メーカー「ピーエス」さんを訪問。

北広島市に生産拠点を構える暖房機器メーカー・ピーエスさん。

1960年の創業以来、温水ラジエーター(パネルヒーター)による放射暖房を専門に手がけてきた、温度と湿度の専門企業です。

窓の外は一面の雪景色なのに、ガラスのこちら側では南国の植物が元気に育っている。

 

放射暖房がつくり出す室内環境の質が伝わってきます。風もなく、音もなく、ただ穏やかに暖かい。

北海道では新築戸建の78割がこの輻射式暖房のパネルヒーターを採用しているというから、まさに標準仕様です。

人間の身体は、空気の温度だけでなく周囲の面からの放射熱にも反応します。

壁が冷たい家では、いくら室温を上げても「なんとなく寒い」と感じてしまう。

逆に、壁・床・天井がしっかり暖まっている家では、室温がそこまで高くなくても快適に過ごせる。

この「放射環境の向上」こそが、北海道の住宅が目指してきたゴールだと知りました。

 

 

この夜は、北欧テイストのデザインが美しい「K-ハウス」に宿泊。

こちらもパネルヒーターが設置されており、室内はどこにいても均一に暖かい。

外はマイナスの世界なのに、参加者は半袖で夕食の準備をしています。

初日の灯油ファンヒーターの民泊との差が、身体で鮮明にわかりました。

 

夕食は北海道のラクレットチーズ。

とろりと溶けたチーズの贅沢な香りを楽しみながら、建築談義と楽しいトークが続きます。

 

食後は離れのログハウスの薪ストーブを囲んでの二次会。

 

薪ストーブも輻射暖房の一種で、炎が放つ遠赤外線がじんわりと身体の芯まで暖めてくれます。

暖房としての性能はもちろんですが、揺れる炎を眺めながら過ごす時間の豊かさは、

数値では測れない「情緒性能」とでも呼ぶべきもの。暖房の最強形態かもしれません。

初日のちょい築古民泊のファンヒーターと、K-ハウスの放射暖房。

対流式と輻射式の差を、同じ旅の中で体感できたのは大きな収穫です。

穏やかな環境でよく眠れたので、民泊の睡眠不足を解消できました。

 

道民は本当に冬に半袖でアイスを食べるのか?

「道民は真冬に家の中で半袖でアイスを食べている」――本当でした(笑)

立ち寄ったセイコーマートは、冷たい飲み物とアイスの売り場がやけに充実している。

家の中が暖かく、寒さを感じないからこそ、冷たいものが欲しくなる。

関東ではまだ寒い家が多いから、冬にはおでんが食べたくなる(笑)

コンビニの品揃えにまで、北海道の住環境が表れていることに感心してしまいました。

 

断熱修行の旅を終えて

北海道の気象条件は、想像よりもずっと厳しかった。

だからこそ北海道の建築は磨かれてきたのだと、3日間を通じて実感しました。

厳しい環境だからこそ、食べ物も美味しいのかも(笑)

断熱・気密・換気はセットで考えなければ意味がない。

どれか一つが欠けても、快適な室内環境はつくれない。

頭では知っていたはずのことが、冬の北海道で「寒さ」「断熱」「暖房」「暖かさの質」

を順に体感したことで、ようやく自分の中に落ちました。

亜耕さんのコメントされていた「体験することで単なるイメージを正しく修正し、

その理由を知ることで、今まで思いもつかなかった新しい発想や視点が生まれる。」---刺さりました。

 

ミライの住宅の皆さん、山本亜耕さん、ご一緒した全国のつくり手の皆さん、ありがとうございました。