同じ広さでも広く感じる家・狭く感じる家の違い|設計でつくる広がり
こんにちは。イシハラアーキテクト代表の一級建築士の石原健です。
家づくりの打ち合わせでは、
「LDKは何帖ほしい」
「寝室は何帖ほしい」
「できるだけ広い家にしたい」
という話がよく出ます。
もちろん、面積は大切ですが、
人が実際に感じる「広さ」は、畳数だけで決まるわけではありません。
同じ20帖のLDKでも、広々と感じる家もあれば、どこか狭く感じる家もあります。
逆に、決して大きな家ではないのに、のびやかで広がりを感じる住まいもあります。
名作と言われる建築を実際に見に行くと、写真から得ていたイメージよりも
小さくて驚くことはよくあります。
その違いは、単純な面積ではなく、設計の工夫によって生まれます。
私たちが広く感じる家を設計するときに大切にしているのは、
・視線の抜け、
・空間のつながり、
・先へ続いていく気配
広さは、ただ床面積を増やせば生まれるものではありません。
限られた面積の中で、どう視線を通し、どう空間をつなげ、どう奥行きを感じさせるか。
そこに設計の力が表れます。
間仕切りを減らし、空間をつなげる

かつての家づくりは、性能不足による室内の暑さ寒さの不満を防ぐために
部屋ごとに区切る間取りが一般的でした。
一部屋ごとにエアコンを設置して、個別空調をしていました。
それぞれを壁で仕切ると、空間は小さく分断され、
実際の面積以上に狭く感じてしまいます。
断熱をしっかりした建物は、
間仕切りらない大きな空間にしても、
温度ムラはあまり感じません。
家族が集まる場所は、できるだけ大きくつなげる。
一人で過ごす場所は、天井を少し下げたり、
お籠り感を出して、少し落ち着いた空間にする。
そして、完全に分断するのではなく、どこかで気配がつながるようにする。
そうした距離感を設計することで、広がりを感じながらも、落ち着いて暮らせる住まいになります。
建具は、できるだけ引き込み戸にする
空間のつながりを考えるうえで、意外に大事なのが、建具の選び方。
一般的な開き戸(ドア)は、開けたときにも扉の存在が残ります。
扉が壁の前に出るため、空間のノイズになり、
視線を遮ったり、空間を区切って見せたりすることがあります。
また、開閉のためのスペースも必要になります。
一方で、引き込み戸は、開けたときに建具が壁の中へ納まります。
そのため、隣の空間とつながりやすく、部屋と部屋の境界が目立ちにくくなります。
必要なときは閉じる。
普段は開け放って、ひとつの空間として使う。
この切り替えができることは、暮らしの自由度にもつながります。
たとえば、リビングの隣に小さな和室や書斎がある場合。
開き戸で区切ると、どうしても「別の部屋」として見えやすくなります。
しかし、引き込み戸で大きく開けられるようにしておけば、普段はリビングの一部のように使うことができます。
来客時や集中したいときだけ閉じることもできます。
同じ面積でも、建具の選び方によって、空間の感じ方は大きく変わります。
広さは、部屋の大きさだけでなく、開けたときにどこまで空間がつながるかによっても変わります。
だからこそ、建具の納まりまで含めて考えることが大切です。
廊下をできるだけなくす

廊下は、部屋と部屋をつなぐための移動空間です。
もちろん、間取りによっては必要になる場合もありますが、
ただ、廊下が多い家は、床面積のわりに実際に使える場所が少なくなります。
たとえば、10坪のうち2坪が廊下になっていれば、その2坪は基本的に「通るためだけの場所」になります。
同じ床面積でも、廊下が多い家と少ない家では、暮らしに使える面積に差が出ます。
廊下を減らし、その分をリビングや収納、ワークスペース、家事動線の一部として使うことができれば、家の中で活きる面積が増えます。
たとえば、階段まわりをリビングと一体にする。
通路を本棚や収納と兼ねる。
洗面や家事スペースへの動線を、単なる廊下ではなく、使える場所として計画する。
そうすることで、移動のためだけの面積を減らし、家全体を無駄なく使うことができます。
広く感じる家は、単に大きな部屋がある家ではありません。
無駄な面積が少なく、どの場所にも役割がある家です。
限られた面積の中でも、通るだけの場所をできるだけ減らし、暮らしに使える場所を増やす。
それも、広く感じる家をつくるための大切な考え方です。
見えないけれど、先がある気配をつくる

広さを感じるうえで、もうひとつ大切にしていることがあります。
それは、家の中に「行き止まり感」をつくらないことです。
空間の奥に光が見える。
少し曲がった先に、まだ場所が続いているように感じる。
すべては見えていないけれど、その先にも空間があることが伝わる。
こうした「先へ続く気配」は、空間に奥行きを生みます。
建築家の飯塚豊さんが、広さについて、
「畳数ではなく、気積(エアボリューム)で感じるもの」
という趣旨のことを話されていました。
ここでいう気積とは、単に天井の高さや部屋の容積だけを指すものではありません。
実際に見えている空間(可視領域)に加えて、
見えてはいないけれど、先に続いていると感じられる空間(暗示領域)。
その両方が、人にとっての体感的な広さにつながるという考え方です。
この考え方には、とても納得しています。
広さは、空間のすべてを見せることで生まれるとは限りません。
むしろ、少しだけ見えない部分があることで、奥行きや余白を感じることがあります。
完全に閉じてしまうのではなく、少し先を感じさせる。
行き止まりにせず、光や視線が抜ける場所をつくる。
その先にも空間が続いているように感じられるようにする。
そうした工夫の積み重ねが、実際の面積以上の広がりにつながります。
広く見せることと、心地よく暮らすこと
「広く見せる」と聞くと、少しテクニックの話に聞こえるかもしれません。
けれど、私たちが本当に大切にしたいのは、見た目の広さそのものではありません。
そこで暮らす人が、のびやかに、心地よく過ごせること。
広がりは、そのための手段だと考えています。
家は、大きければ大きいほど良いというものではありません。
面積が増えれば、建築費は上がります。
冷暖房する範囲も広くなり、掃除やメンテナンスの手間も増えていきます。
名作と言われる住宅を訪ねると、
写真で思い描いていたよりもずっとコンパクトで驚くことがあります。
それでも、その空間に身を置くと、不思議と窮屈さは感じません。
視線の抜け、光の入り方、空間のつながり。
そうした設計の積み重ねが、実際の面積を超えた広がりを生んでいるのだと思います。
だからこそ私たちは、必要以上に大きな家を求めるのではなく、
ちょうどよい面積の中で広がりを感じられる住まいを大切にしています。
間仕切りや建具、視線の通り方、廊下の取り方、その先に続く気配。
ひとつひとつの工夫が重なったとき、家は畳数以上に広く、そして心地よく感じられるようになります。
「広さ」は、数字だけで決まるものではありません。
何帖あるかではなく、そこでどう過ごし、どんなふうに感じられるか。
その感覚まで含めて考えて、設計に取り組んでいます。