50年後の「当たり前」を見越して建てる。
50年後の「当たり前」を見越して建てる。
家を建てるとき、どうしても「今」を基準に考えます。
今の建築基準を満たしているか。
予算に収まるか。
どんな設備が使いやすいか。
どんな間取りが暮らしやすいか。
もちろん、どれも大切です。
ただ、住宅はとても長く使うものです。
2026年に建てた家が、2070年代にも使われていることは十分にありえます。
そう考えると、家づくりでは「今」だけでなく、その先まで見ておく必要があります。
今の基準を満たしているかではなく、50年後にも無理なく使い続けられるか。
そんな時間軸で考えることが大切です。
「今の基準を満たす」と「将来も十分」は同じではない
2025年4月から、日本では原則としてすべての新築住宅に省エネ基準への適合が義務づけられました。
一方で、現在の省エネ基準が、この先何十年も十分な性能というわけではありません。
国は、遅くとも2030年までに新築住宅の省エネ基準をZEH水準まで引き上げる方針を示しています。
つまり、現在より高い住宅性能が、数年後には新築住宅の標準になっていくということです。
耐震性能も同じです。
耐震基準は、過去の地震被害を受けながら見直されてきました。
1981年の新耐震基準、2000年の木造住宅に関する規定強化など、当時の基準に適合していた住宅でも、その後の知見によって、より高い安全性が求められるようになっています。
2016年の熊本地震でも、新耐震基準で建てられた木造住宅のうち、2000年以前の建物に倒壊などの被害が確認されました。
つまり、
現在の「建築基準法をクリアしている」ことと、「この先何十年も十分な性能を持つ」ことは同じではありません。
現在の最低基準をゴールにするのではなく、その家を何十年使うのかを考えて性能を決める。
長く使う住宅では、この視点が欠かせません。
海外でも、住宅性能に求められる水準は上がっている
住宅性能を高める流れは、日本だけではありません。
中国や韓国をはじめ、海外でも建築物の省エネルギー性能を法令で求める流れが進んでいます。
もちろん、国によって気候も住宅のつくり方も違うため、性能値だけを取り出して単純に比較することはできません。
ただ、
住宅に一定以上の性能を求めることが、世界的に当たり前になりつつある。
この大きな流れは知っておく必要があります。
日本も、その途中にあります。
建てるときに安くすることが、本当に安いとは限らない
家づくりでは、予算を考えることが欠かせません。
ただし、建築時の金額だけで判断すると、結果として高くつくことがあります。
照明器具や家具であれば、後から比較的簡単に交換できます。
一方で、
断熱。
構造。
防水。
屋根や外壁。
窓。
軒の出。
こうした部分は、完成してから簡単には変えられません。
断熱性能を高めるために壁や天井を壊す。
耐震性能を高めるために耐力壁や接合部を補強する。
場合によっては基礎まで手を入れる。
後から性能を高めようとすると、新築時よりはるかに大きな工事になることがあります。
だからこそ、
あとから変えにくいものほど、新築時にきちんとつくる。
建築時に100万円安くできたとしても、将来100万円で直せるとは限りません。
新築時なら比較的小さな差額でできたことが、後からでは何倍もの費用になることもあります。
さらに性能がその時代の水準から大きく外れてしまえば、
「そこまで費用をかけて、この家を直して使い続けるのか」
という問題になってきます。
建てたときに安い家が、50年間で見ても安いとは限りません。
家の価格は、建築費だけではなく、
その後、何十年使い続けられるのかまで含めて考える必要があります。
その時代の利用に耐えられない家は、価値を失いやすい
住宅は、建っているだけでは価値を保てません。
その時代の暮らしに、普通に使えることが必要です。
たとえば50年後、
冬は寒く、夏は暑い。
冷暖房に多くのエネルギーが必要になる。
その時代では当たり前になった耐震性能を満たしていない。
設備を更新するにも大規模な工事が必要になる。
そんな住宅になっていたとします。
建物はまだ残っていても、安心して快適に住むためには、多額の改修費が必要になります。
その負担が大きければ、
「直して住む」よりも「別の家を選ぶ」
という判断になることもあります。
売却するときも同じです。
たとえば、
3,000万円で、そのまま暮らせる住宅。
2,500万円だけれど、入居後に1,000万円の断熱・耐震改修が必要な住宅。
後者が単純に500万円安いとは考えられません。
必要な改修費まで含めて、その住宅の価値が判断されます。
性能や状態がその時代の要求から大きく外れていれば、
価格を下げなければ選ばれない。
建物として十分に評価されない。
場合によっては、建物を残すより建て替えることを前提に評価される。
そんな可能性もあります。
2024年からは、住宅の販売や賃貸において、省エネ性能をラベルで表示する制度も始まっています。
これから住宅性能がさらに見えるようになれば、
そのまま使える家なのか、大きな改修をしなければ使えない家なのか。
その違いは、今まで以上に分かりやすくなっていくでしょう。
建築時に少し安くするために削ったものが、
将来の改修費となり、
光熱費となり、
売却時の不利となって返ってくる。
目先のコストだけで判断すると、結果として損をする可能性があります。
「古い家」と「使えない家」は違う
どんな家も、時間が経てば古くなります。
それ自体は悪いことではありません。
何十年も経った家を見て、「いい家だな」と感じることがあります。
木は日に焼け、床には傷がつき、金属にはくすみが出ている。
それでも魅力が残っている。
むしろ、時間が経ったことで良く見えることさえあります。
一方で、それほど築年数が経っていなくても、古さを感じてしまう住宅もあります。
その違いには、素材や設計も関係しています。
手入れをしながら使える素材。
流行に寄りすぎないデザイン。
設備を交換しやすいつくり。
暮らし方の変化に対応できる間取り。
建物を長く守る構造、断熱、防水、耐久性。
長く使える家に必要なのは、単に壊れないことだけではありません。
古くなっても、使い続けたいと思えること。
それも住宅の寿命を左右します。
長く使えるものに、お金をかける
50年後の暮らしを正確に予測することはできません。
どんな設備が使われているのか。
エネルギー価格がどうなっているのか。
暮らし方がどう変わっているのか。
それは誰にも分かりません。
だからこそ、未来を予想するのではなく、
簡単には価値が変わらないものに、きちんとお金を使う。
地震に耐えられる構造。
外の暑さや寒さの影響を受けにくい断熱性能。
少ないエネルギーで快適に暮らせる建物。
雨や紫外線から家を守る屋根や軒。
手入れをしながら使える素材。
設備を交換しながら使い続けられるつくり。
家族構成が変わっても対応できる設計。
そして、時間が経っても心地よいと思える空間。
住宅性能というと、UA値やC値、断熱等級、耐震等級などの数字に目が向きます。
もちろん、数字で確認できる性能は重要です。
ただ、数字を競うことが目的ではありません。
目指したいのは、
50年後にも、普通に心地よく、安心して暮らし続けられる家です。
家づくりでは、どうしても目の前の見積金額が気になります。
数十万円、100万円という差は決して小さくありません。
それでも、
その選択を50年間使うとしたらどうか。
一度、そこまで時間軸を伸ばして考えてみる。
建てるときにいくら安くなるかではなく、
50年間で、何が残るのか。
長く使う家だからこそ、そんな視点で考えたいものです。