長く住み継げる住まい

住まいは、建てた瞬間が完成ではありません。10年、20年、そして次の世代へ。長い時間を受け止めるためには、目に見えない部分ほど、理論と丁寧さが必要です。私たちは「劣化させない」「直しながら使える」を軸に、住み継げる家の土台をつくっています。

耐久性の高い基礎・構造(100年持つコンクリートの考え方)

住まいの寿命を大きく左右するのは、仕上げ材よりも、基礎や構造といった骨格です。私たちは「住み継げる住まい」を実現するために、基礎コンクリートを強度だけでなく耐久性まで含めて計画します。具体的には、建築工事標準仕様書JASS5 が示す「耐久設計基準強度(Fd」の考え方を踏まえ、計画供用期間に応じて、コンクリートの圧縮強度を適切に確保します。これは中性化の進行や鉄筋腐食など、時間とともに起こる劣化に対して、構造体が健全であり続けるための耐久性側の基準です。たとえば「長期(目安100年)」相当の級では、JASS5に基づき耐久設計基準強度を高めに設定します。見えない部分ほど丁寧に、確実に。完成後には隠れてしまう工程こそ誠実に積み重ねることが、次の世代へ手渡せる住まいの土台になると考えています。

結露計算による内部結露対策(壁体内の健全性を設計で担保)

壁の中で起きる結露は、気づいた時には進行していることが多く、構造材の劣化やカビの原因になります。高断熱・高気密の家ほど、湿気の移動まで見据えた設計が必要です。私たちは建物の構成から結露計算を行い、断熱・気密・防湿・通気のバランスを整えて、建物構成(壁・屋根・床の層構成)そのものを結露が起きにくい方向へ組み立てます。具体的には、室内外の温湿度差の中で湿気がどのように移動するか、材料ごとの透湿抵抗値を踏まえて設計します。断熱・気密・防湿・通気のバランスを、層ごとの役割として整理し、結露計算で安全側を確認しながら最適化する。「見えない場所で傷まない」ことを、経験則だけでなく理屈で担保する。壁体内の健全性を守るこの取り組みが、住み継げる住まいの確かな土台になります。

ホウ酸処理による防蟻対策

住まいを長く守るうえで、シロアリ対策は欠かせません。効果の持続性と人・室内環境との相性の良さから、私たちはホウ酸処理を採用し、木部を食べられにくい状態に整えることで、被害リスクを抑えます。ホウ酸は揮発しにくく、適切に施工されれば効果が長く続きやすいのが特徴です。加えて、湿気を溜めない設計・換気・雨仕舞と組み合わせることで、薬剤だけに頼らない「総合的な耐久性」を目指しています。

 

地域の山の木で、骨格をつくる

私たちは地域の山から採れる檜・杉を構造材に用い、住まいの骨格を組み立てています。地元の木は、素性がわかりやすく、つくり手として材料の背景を説明できることも大きな価値です。その土地の環境で育った木は地域の気候風土と相性も良く、輸送距離が短い=環境負荷が小さいなど合理性もあります。何より地域経済の循環、地域の森林の健全化にも貢献できます。地域の山の循環が回ることは、暮らしの基盤を未来へつなぐことでもあります。

 

設備は必ず壊れる前提で更新しやすく

どんなに高性能な設備でも、いつか必ず更新の時期が来ます。だから私たちは「壊れない家」をうたうのではなく、「壊れたときに困らない家」を前提に設計します。近年は、大手メーカーのように専用開発された設備・システムも増えていますが、更新時にまとまった費用がかかり、交換だけで200万円という話も珍しくありません。住み継ぐうえで、その負担が将来の不安や先送りにつながってしまうことがあります。私たちは、いつでも手に入る汎用品を、建築的工夫で使うという考え方を大切にしています。点検口の位置、配管・配線の経路、機器の搬入出、将来の機器サイズ変更まで見据えておくことで、交換は「大工事」ではなく「計画されたメンテナンス」になります。設備を消耗品として扱い、暮らしを止めずに更新できる。これも、住み継げる住まいの大切な条件だと考えています。